結社誌『雲取』・書評~句集・俳書存問      下条杜志子

草深昌子句集『邂逅』             

 作者は1943年大阪生れ、現在は神奈川県厚木市在住。1978年「雲母」入会、「鹿火屋」を経て、「晨」同人、「ににん」同人である。
 本集は『青葡萄』に次ぐ第二句集であり、平成3年より14年までの作品を逆年順に収めてある。

  さはさはと七夕竹の運ばるる
  鷺草の蜜を吸はせてもらひける
  ちぎらんとすれば蓮に力かな
  後退りまた後退り待宵は


 物静かなしっかりとした言葉で詠まれた句のなかから感覚のある句を抽いてみた。七夕竹は多分目の前を運ばれてゆく。音がして、次いで量感が感じられる。小さなちいさな鷺草の蜜を吸わせていただくとはまた幸せな。蓮をちぎる自分の力を、即ちぎられる蓮の生命力に転化している。待宵の心を「後退り」という行動に置きかえて表現して印象的だ。

  寒晴や白湯にさしたるうす緑
  蟻穴を出づる出会ひの辞儀あまた
  人たれも背中忘れてみる良夜


 寒晴の句の繊細な感性、蟻の句の品のあるユーモア、良夜の句には孤独さとともに、大きな宇宙に抱かれようとする人間の謙虚さもあろう。第三句集が待たれる。

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 (2004年8月1日雲取俳句会発行、「雲取」No.83(通巻131)p6所収)
by masakokusa | 2007-06-14 15:47 | 『邂逅』書評抄録2
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