原石鼎俳句鑑賞・平成30年3月                 草深昌子

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 いちさきにつもる枝見よ春の雪    原石鼎  昭和6



春の雪は溶けやすいというイメージがあるが、思わぬ大雪となることもあって、一概には言い切れないのが自然現象のありようである。

だが掲句は、やはり淡雪であろう。

はかなげにも、見る間に積もりはじめた雪の美しさに作者自身がもう目を瞠っているようである。

「いちさきにつもる枝見よ」という、やや急き込こんだような言い方そのものでもって、読者もまた引き込まれるように束の間の美しい光景を見せてもらえるのである。

紅梅であろうか、椿であろうか、いずれにしても純白の雪に垣間見えるのはほんのり赤い花の枝のように思われる。


この句を含め石鼎の3句が、現代俳句協会から発行された『昭和俳句作品年表』(戦前・戦中篇)の昭和6年の部に掲載されている。


  いちさきにつもる枝見よ春の雪     原石鼎

  雛買うて杣雪山へ帰りけり        〃

  鯉はねて画室ぬらせし雪夜かな      〃


この他、昭和6年には、「昭和の名句」として名高い作品が屹立している。

この年は、かねてから高野素十と写生論の違いのあった水原秋櫻子が、「『自然の真』と『文芸上の真』」を発表して、高濱虚子の「ホトトギス」を離脱した年として記憶に残るものである。

  

  わらんべの溺るるばかり初湯かな     飯田蛇笏

  金剛の露ひとつぶや石の上        川端茅舎

 生涯にまはり燈籠の句一つ        高野素十

  紅梅の紅の通へる幹ならん        高濱虚子

  みちのくの伊達の郡の春田かな      富安風生

 降る雪や明治は遠くなりにけり      中村草田男

  今朝咲きしくちなしの又白きこと     星野立子

  そら豆はまことに青き味したり      細見綾子

  水仙や古鏡の如く花をかかぐ       松本たかし

  夜の畦を偃ふ梅ありて行きがたし     水原秋櫻子

  吸入の妻が口開け阿呆らしや       山口青邨

  かたまって薄き光の菫かな        渡辺水巴


現代俳句の基礎ともいうべき昭和2年からの十年間の時代は、石鼎の40歳代、まさに壮年期にあたるものである。

「春の雪」、「雛」の句にも絵画的センスがよく出ているが、〈鯉はねて画室ぬらせし雪夜かな〉には、俳画展を度々開くなど、絵を書くことに熱中していた石鼎を浮き彫りにしている。


by masakokusa | 2018-03-31 21:28 | 原石鼎俳句鑑賞
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