『里』(島田牙城主宰)二千十八年2月号より・俳句鑑賞

あふみのしづくしらたましらずしてしたがふこひはいまこそまされ  万葉集巻第十一 柿本朝臣人麻呂之歌集出

近江に降りた真珠たち     中村与謝男


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大雨の宿りを室の花のもと     草深昌子 句集『金剛』



 室の花の室(むろ)はガラス張りの、或いはビニールハウスの様な温室のこと。こうした温室育ちの花が室の花。

 今は温室の設備や技術が発達し、季節に関係なく様々な花が出回るから、この場合は蘭などとも取れるが、そうではあるまい。

 作者は伝統派の方だから、この花は既に蕾をつけた草木を炉火を設えた室内に持ち込んで、開花を早めさせた花。

 伝統を意識して梅と考える。

 雨宿りさせてもらった廈(いえ)で炉火近くへと勧められ、梅を見たのだろう。

 座五の「もと」は、そのすぐそばの意だから、花の香もしているに違いない。

 冬の大雨に濡れた身に炉火はあたたかく、尚も降り続く雨音が聞こえる。

 能の「鉢木」では、雪中一夜を求めた旅僧(最明寺時頼)に、佐野源左衛門常世夫婦が栗飯を勧め、薪が無いからと秘蔵の鉢 

 木を燃やす。

 句も、作者への主の優しいもてなしの心根が伝わるようだ。

 


by masakokusa | 2018-03-03 20:54 | 昌子作品の論評 | Comments(0)
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