『青草』・『カルチャー』選後に・平成29年7月    草深昌子選
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   子育てを終へて世に出る白日傘        佐藤健成
 
 子育て中には外出もままならなかった女性が、様々の難儀を乗り越え、今や颯爽と働きにでかける白日傘である。
 昨今、女性は出産後であってもすぐに世に出られる時代であるが、少し古い世代は、とにもかくにも子育てが大事であった。
 この句の白日傘は、女性進出がままならなかった時代の、ある種の憧れを象徴するものとして描かれていることに感銘を覚えた。
 この頃は黒日傘も多いが、素直にも屹然たる女性の日傘は、何といっても真っ白がいい、見るからに涼しげである。

   我が先へ先へと日傘嬉しさう    健成

 こちらは女学生であろうか、いかにも若々しくダイナミックである。
 二句とも、日傘を通して、女性へのやさしい眼差しがうかがい知れるものである。



   軒下に合羽吊して鮎の宿      坂田金太郎

 鮎釣りは、鮎の縄張りを持つ習性を利用して囮鮎を使ったり、またエサ釣りやドブ釣りなどなかなかに楽しそうだが、腰深くまで川に浸かって、体力の消耗も激しいのではないだろうか。
 掲句は、鮎宿の軒下の一面を叙しただけであるが、その内側に繰り広げられているであろう釣人の声々や佇まいまでもが想像されてくる。
 香魚と言われる鮎の香気が、濡れしきった雰囲気の中にただよってもいるだろう。
 何も言わない俳句の強みをあらためて気付かされるものである。
 同じ作者の、

   焦げあとの穴ともならず渋団扇      金太郎

も、渋団扇の質感というか、しぶとさを言い得て妙である。

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   夏の日の松は静かに吉田邸      宮本ちづる

 吉田邸は、戦後の混乱期に長く首相を務めた吉田茂首相邸である。
 邸宅は富士山を臨める大磯にあって、8年前に原因不明の火事で焼失したが今年再建された。
 松の木が高々とその涼し気な枝ぶりを見せているが、これらの木々は、吉田首相の艱難辛苦をことごとく見守ってきたものであろう。
「夏の日の松は静かに」は、「吉田邸」に集約されて、まこと、どっしりと落ち着いている。
 それは、そうとしか言いようのなかった、作者のもの思いの静けさでもある。
 吉田茂の時代をしみじみと回顧されたのであろう。

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   郭公の声のみ響く桟敷跡      神崎ひで子

 桟敷は祭を見るためのものであったのか、あるいは芝居か相撲か何かの見物席であったろうか、ともかく今は無き桟敷の跡の光景が、なにがなし残像のようにしのばれて、さびしげにも広やかな明るさをまのあたりにするようである。
 それはカッコウ、カッコウという誰しもがよく聞きわけている牧歌的な鳴き声が一句全体に染みわたっているからであろう。
 〈郭公や何処までゆかば人に逢はむ〉という臼田亜浪の句が思われもするものである。



   野良仕事大夕立の追ひかくる      新井芙美

 上五にドンと置かれた「野良仕事」が大きく効いている夕立である。
 夕立というものの野趣が、土の匂いとともにいよいよ大きくうち広げられたような臨場感が頼もしい。



   目覚むれば夏満月を浴びてをり      平野翠

 何という贅沢な目覚めであろうか。
 秋の満月ではない、「夏満月」であればこその月明りの情趣が、静かに伝わってくる。
 睡るという人体の輪郭も又清らかに感じられるものである。

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   雲仰ぎ通る翡翠の小枝かな        栗田白雲
   雀来て蛍袋を揺らしけり          中澤翔風
   立錐の余地なき夜の団扇かな      鈴木一父
   色かたちどれも違うてみな四葩      藤田トミ
   日傘さす君の手白し無人駅        米林ひろ
   白桃の水しなやかに浮きにけり      二村結季
   月光やわらし居さうな夏座敷       古舘千世
   虎尾草や雫の切れず揺れ通し      森田ちとせ
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   八木節の聞えて赤城雲の峰        間草蛙
   ちかぢかと花柄見ゆる水眼鏡       熊倉和茶
   初蝉や風よく通る並木道          佐藤昌緒
   蜩や大雄山の和合下駄           石堂光子
   天の川麺にオクラの星散らし        奥山きよ子
   遠雷やラジオのノイズひとしきり      中原マー坊


by masakokusa | 2017-08-31 23:59 | 『青草』・『カルチャー』選後に
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