☆『玉梓』 平成29年7・8月号 (名村早智子主宰) 句集の窓 『金剛』 草深昌子 赤子はやべつぴんさんや山桜 「美しい山桜の宿で、庭下駄に下り立って、先生はじめ「晨」の皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは、生涯忘れることはないでしょう」と、帯紙に記されている。 金剛山は草深氏の故郷の山でもある。 『金剛』は『青葡萄』『邂逅』に次ぐ第三句集。 消えなんとしてなほ左大文字 筆者は左大文字を毎日見上げる。まるで仏前に手を合わせるように。 初時雨駆けて鞍馬の子どもかな 菅浦の子供に出づる地虫かな 歴史ある村の子供たち。共に幸あれ。 冬暖か地図のどこにも寺があり 奥つ城のほかは春田でありにけり 風の鳴るやうに虫鳴くところかな 門入ると襖外してゐるところ 昭和18年大阪市生まれ。52年飯田龍太主宰「雲母」入会 60年原裕主宰「鹿火屋」入会 平成10年深吉野佳作賞受賞 12年大峯あきら代表「晨」同人参加 岩淵喜代子代表「ににん」同人参加 「青草」主宰 俳人協会会員。 神奈川県在住。 ☆ 『伊吹嶺』 2017年6月号 通巻228号(栗田やすし主宰) 俳書紹介 草深昌子句集『金剛』(2016年11月ふらんす堂 2700円) 「「金剛」こと金剛山は、吉野のある奈良県と、私が生まれ育った大阪府の境に立つ主峰です。なつかしさが重なり、句集名といたしました。」(「あとがき」より) 赤子はやべつぴんさんや山桜 奥つ城のほかは春田でありにけり 耕して大日寺の裏に住む あめんぼう大きく四角張つてをり 網戸より沖の一線濃く見たり ☆『きたごち』 2017年6月号 第339号(柏原眠雨主宰) 句集紹介 石川千代子 草深昌子『金剛』 句集『金剛』は著者の第三句集である。 342句を収録。ふらんす堂刊。 美しい山桜の宿で、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは生涯忘れることはない。 金剛山は、奈良県と大阪府の境に立つ主峰である。 なつかしさが重なり句集名としたと、あとがきに記す。 稲は穂に人は半袖半ズボン 赤子はやべつぴんさんや山桜 さへづりやたうとう落ちし蔵の壁 石蕗の花さかまく波をよそに咲く どこにでも日輪一つあたたかし 耕して大日寺の裏に住む あめんぼう大きく四角張つてをり など、感性豊かな写生句が並び、ていねいに物に向き合った表現が明快で、俳味もあり 深い味わいが伝わってくる一集である。 1943年大阪市生まれ。 1989年近松顕彰全国俳句大会文部大臣賞受賞。 「晨」同人、俳人協会会員。 ☆『栴檀』 2017年6月号第176号(辻惠美子主宰) 句集紹介 『金剛』 草深昌子 金剛をいまし日は落つ花衣 椋鳥にうち交じりては青き踏む 耕して大日寺の裏に住む 師や句友と眺めた金剛山、その沈みゆく夕日は生涯忘れないと作者。 静謐なる世界。 第三句集、ふらんす堂。 1943年生、神奈川県在住。 「晨」同人、『青草』主宰。 ☆『谺』 平成29年5月号 (山本一歩主宰) 受贈句集御礼 山本一歩 『金剛』 草深昌子(青草・晨) 七夕の傘を真っ赤にひらきけり 木は朽ちて鉄は錆びたる薄かな 電球に笠あることの露けしや 寒晴や鼈甲飴は立てて売る 着ぶくれて一騎当千とはいかぬ (平成28年11月21日・ふらんす堂・2700円+税) ☆『雪天』 2017年5月号 (新谷ひろし主宰) 現代の俳句 岡部文子 赤子はやべっぴんさんや山桜 草深昌子 句集『金剛』から。 あとがきには「美しい山桜の宿で、庭下駄に下り立って、先生はじめ「晨」の皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは、生涯忘れることはないでしょう」とある。 掲句は山桜の宿での出来事かもしれない。赤子はどんな子でも愛らしいもの。 だが、この子は早くもすでに別嬪さんだという。単に「美人」と言わず、「別嬪さん」としたことで「山桜」という季語と調和している。 ☆ 『雲取』 平成29年5月号No・236 (鈴木太郎主宰) 百花風声 ・ 鈴木太郎 松蝉や宗祇法師の墓どころ 草深昌子 連歌師宗祇法師の墓は、箱根・早雲寺にあるが、その傍の森に松蝉(春蝉)が鳴くという。 初夏の木々の気配が思われる挨拶句。 句集『金剛』 ☆ 『大楠』 平成29年4月号 (川崎慶子主宰) 『句集 金剛』 草深昌子 1943年大阪市生れ。1977年飯田龍太主宰「雲母」入会。1985年原裕主宰「鹿火屋」入会。 2000年大峯あきら代表「晨」同人参加。岩淵喜代子「ににん」同人参加。 「青草」主宰。俳人協会会員。 どきにでも日輪一つあたたかし さへづりやたうとう落ちし蔵の壁 踏青の二度まで柵を跨ぎたる 耕して大日寺の裏に住む 奥つ城のほかは春田でありにけり 門入ると襖外してゐるところ あめんぼう大きく四角張つてをり 網戸より沖の一線濃く見たり 子規の顔生きて一つや望の月 風の鳴るやうに虫鳴くところかな 石蕗の花さかまく波をよそに咲く 大晴の報恩講に出くはしぬ 「金剛」は、「青葡萄」「邂逅」につづく第三句集。 発行所 ふらんす堂 (森 弘子) ☆ 『たかんな』 平成29年4月号 (藤木倶子主宰) 俳書紹介 草深昌子句集『金剛』 『青葡萄』『邂逅』に次ぐ第三句集。 句集名とされた『金剛』は、著者の生まれ育った大阪府と奈良県境に立つ主峰、金剛山から名付けたとあとががきに。 雄大な山塊に抱かれ、育まれ、磨き上げた詩心は、豊かに美しい旋律を持つ抒情句となり、読者を引きつける。ますますのご清吟を! 声はおろか顔も知らざる墓洗ふ さかしまに絵本見る子や枯野星 風光る廃校にして掃かれあり さへづりやたうとう落ちし蔵の壁 金剛をいまし日は落つ花衣 どこにでも日輪一つあたたかし 大いなる亭午の鐘や花の山 1943年大阪市生まれ。77年「雲母」入会。85年「鹿火屋」入会。 93年第一句集『青葡萄』刊行。2000年「晨」「ににん」いずれも同人参加。 03年第二句集『邂逅』刊行。現在「晨」同人。俳人協会会員。 「青草」主宰。カルチャーセンター講師。鹿火屋新人賞外受賞。 神奈川県在住。 (小野寺和子) ☆ 『篠』 2017 Vol・180 (岡田史乃主宰) 草深昌子句集『金剛』を読んで 作者は「青草」主宰。本書は平成5年『青葡萄』、平成15年『邂逅』に続く第三句集である。 金剛をいまし日は落つ花衣 句集名『金剛』は大阪、奈良の境、金剛山、作者のふるさとの山から名付けた。 江ノ電の飛ばしどころや白木槿 巻頭の句、秋のただ中、鮮やかな水彩スケッチの様である。 かりそめに寝たるやうなる寝釈迦かな 傾がざる杭なかりけり涅槃西風 奥つ城のほかは春田でありにけり 波際にほどなき若布干場かな 時節柄、拙稿では主に作者の春の句を鑑賞させていただいた。 本書を持つと春景をすばやく鉛筆スケッチし、水彩絵の具をうすく乗せたA4ほどの画帳を開くよ うな気がする。 遠景と近景がマッチし春の風物が溶け込んでおり、写生句として秀逸と思う。 銀蠅を風にはなさぬ若葉かな 蝶々の飛んでその辺みどりなる 雲は日の裏へまはりてあたたかし 寒禽の空にはづみをつけてをり 大鳥の遠くをよぎる暮春かな 自然の中の風物、動植物、気象と季語との取り合せ、俳句の考え方を教えられる。 意表をつく物事の見方が絶妙であると思う。 銀蠅と若葉、蝶々とみどり、雲と日、寒禽と空、大鳥と暮春、俳句の中における関係性、 作者の様に写生から俳句にするには年月長い努力と真摯な気持ちが要るだろう。 赤ん坊を下ろして梅の咲くところ 赤子はやべつぴんさんや山桜 赤ん坊も犬も引っ掻く網戸かな ちゃんちゃんこ何かにつけて笑ひけり 入園の子や靴脱いで靴置いて 小さな子供へのやさしい眼差しが感じられる。 あとがきに書名の『金剛』について書かれている。 「恒例の吉野の桜吟行はかけがえのない濃密な句会でありました。美しい山桜の宿で、庭下駄に下り 立って、先生はじめ「晨」の十名ほどの皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕 日を眺めたことは生涯忘れることはないでしょう。」 赤子はや、の句もその折に生まれた。 早春やニコライ堂のうすみどり 今句集の出版記念会において「これが私の初めての俳句」と紹介されていた。 この頃から今に至るまで、みずみずしい写生の魅力は更に増しながら続いている。 (関島敦司)
by masakokusa
| 2017-07-30 22:54
| 第3句集『金剛』NEW!
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