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課題詠   兼題=夕顔・蝉      草深昌子選
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 特選 

  蝉の木の絵本にありしごとくあり     山内利男
 
   
誰にも思い当たる光景が、懐かしくも美しい。
   一句の余白には蝉の声が童心そのものに響き渡っている。


  夕顔の空ひとひらと覚えけり       池原富子
   
   夕顔の色はすっかり空に溶け込んでいるのであろう。
   ひそやかな空気感が思われる。「ひとひら」が愛惜。


  夕顔のかたはらの子に名をききし     涼野海音
 
   日常の一端のようではあるが、ふと源氏物語の「夕顔」の情動がかぶさってくる。
   そこはかゆかしい。 

   秀逸 

  夕顔にしんかんとある二階かな      山内利男
  夕顔のほのと明るき帰宅かな       東條和子
  朝八時日は熊蝉を囃しをり         和田哲子
  水遣れば夕顔ぬつと咲いてをり     久下萬眞郎
  夕顔や祖母は母より長く生き       杉本和夫

   入選 

  夜も伸ぶる夕顔の蔓月に雲       二宮英子   
  蝉の鳴く赤松多き寺領かな       大槻一郎
   
   他70句略

(平成29年7月号「晨」所収)
by masakokusa | 2017-07-31 11:09 | 俳論・鑑賞(2) | Comments(0)
「俳句四季」2017年7月号 ・ 忙中閑談
 
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   生きている子規               草深昌子


 
横浜に初桜の咲いた日、「生誕百五十年正岡子規展―病牀六尺の宇宙」を観た。
 会場入口のビデオには子規庵の二十坪の庭が映し出されていた。
 亡くなる五日前のこと、「余は病気になって以来今朝ほど安らかな頭を持て静かにこの庭を眺めた事はない」というくだりに早くも涙ぐんでしまった。
 そうかと思えば、「ごてごてと草花植ゑし小庭かな  子規」に、たまたま居合わせた女性と顔を見合わせて笑ってしまった。
 「ごてごてと」こそが子規の本領である。
 私は大好きな子規にまたここに会えたことを喜んだ。

   初桜一字一句に子規は生き       昌子

 私が俳句を始めたのは四十年昔、同時にこの頃のギックリ腰がきっかけで、私の俳句の日々はいつも腰痛をひっさげている。
 子規はこう言う。
 「ガラス玉に金魚を十ばかり入れて机の上に置いてある。余は痛みをこらへながら病床からつくづくと見て居る。痛い事も痛いが綺麗な事も綺麗ぢや」、この声にどれだけ叱咤激励されたかしれい。
 子規の凄惨なる痛みを思えば我が痛みなど、何ほどのことがあろうかと、子規をおろがむような気持ちで、俳句にはまっていったものである。

   名月やどちらを見ても松ばかり       子規
   名月や小磯は砂のよい処

 明治二十二年、子規は大磯に保養中の大谷是空を訪ね、滞在先の旅館・松林館で大尽扱いをされ、大いにもてなされたという。
 早速、この所在を知りたく、大磯に出向いた。
 郷土資料館に訊ねると、松林館は、文字通り松林の中にあったものの、その後に建った長生館も消失して、今は跡形も無いことがわかった。
 それでも、東海道線「大磯駅」に近く、大磯丘陵が線路に迫ってくるあたりは古びに古びながらも頑丈そうな石垣が残っていて、旅館はここだろうと直感した。
 沿線には古木の桜が、ひときわ美しく満開であった。
 子規は、月光の松林を抜けて、海水浴場として名高い照ケ崎あたりを歩いたのであろう。

 もう十年も前になるが、松山市を再訪したときも、
 子規の「故郷はいとこの多し桃の花」、「鳩麦や昔通ひし叔父が家」などの出処を尋ねて歩いた。
 たどり着いたのは余戸中四丁目、昔町長をしていたという家の前に立つと、「森」の表札がかかっているではないか。
 思い切ってインターホンを押すと、「森円月は遠縁にあたると聞いていますが、今は父も亡くなりまして」という物静かな婦人の声が返ってきた。
 この時も、子規の幼なじみ森円月の生家はここだと独り合点したのだった。
 「ともかく紙に何かを書くのが好きな子でした。一日中でも書いてなさった。子供の頃から半紙はたくさんいる子でした」と母八重は語っている。
 そんな幼い子規が仲良しの森円月と往き来したであろう土を踏みしめているなんて、懐かしくてならなかった。 
 今ここ大磯では、青春真っ盛りの二十二歳の子規が、湘南の風に吹かれている。
 そう思うだけで、春の日差しがいよいよあたたかくなってくるのだった。

 子規は、いつの時も、すぐそこに居て、親しくも明晰なる眼を向けてくれる存在であった。
 子規がいなかったら、三日坊主の私が、俳句を続けることは出来なかったであろう。 
 正岡子規は、今もって静かにも力強く生きているのである。


(2017年7月号「俳句四季」所収)
by masakokusa | 2017-07-30 23:58 | 俳論・鑑賞(2) | Comments(0)
昌子365日(自平成29年6月1日~至6月30日)
 
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      6月30日(金)       南風の山手の坂をのぼりきる 

      6月29日(木)       雨だれのはたして蟻地獄だまり

      6月28日(水)       でで虫をろくに知らずに老いにけり

      6月27日(火)       人の立つやうに木の立つ安居かな
  
      6月26日(月)       鎌倉の梅雨の鴉は笑ひけり

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      6月25日(日)       真間の井に遠からずして真菰刈

      6月24日(土)       松をまへ楓をよこの花あやめ

      6月23日(金)       ひもすがら現の証拠に釣つてをり

      6月22日(木)       単衣着て遠きものほどよく見ゆる 

      6月21日(水)       夏至の日の山羊に小さく鳴かれたり

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      6月20日(火)       枇杷の実の少し酸つぱき峠口

      6月19日(月)       涼しさの松の高さとなりにけり

      6月18日(日)       薔薇園を飛んで蝶々の白くなる

      6月17日(土)       滝見えて聞こえて柵の向かうかな

      6月16日(金)       いふほどもなけれど坂や枇杷熟るる
 
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      6月15日(木)       梅雨茸の脂のやうなるもの吐ける

      6月14日(水)       粗壁に当たるは雨の小判草

      6月13日(火)       風去つてなほ捲れたる花菖蒲

      6月12日(月)       南風のビルの立て込む港かな

      6月11日(日)       スカーフを巻きなほしたり花菖蒲

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      6月10日(土)       羽抜鶏昼を大きく鳴きにけり

       6月9日(金)       紙魚となく黴となくある一書かな

       6月8日(木)       サングラスどこにどう眼を合はさんか
    
       6月7日(水)       税関の裏手に浮きて海月かな

       6月6日(火)       額咲ける小高きところなつかしく

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       6月5日(月)       朝日より西日が好きで黴にけり

       6月4日(日)       よこはまは風に涼しく日に暑く  

       6月3日(土)       白秋を浜昼顔に淋しめり    

       6月2日(金)       水底を見せて水行く海芋かな

       6月1日(木)       緑蔭や人のはだへのやうな幹 
by masakokusa | 2017-07-30 23:57 | 昌子365日 new! | Comments(0)
草深昌子句集『金剛』・書評抄録(その2)
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☆『玉梓』 平成29年7・8月号 (名村早智子主宰)
  句集の窓

 『金剛』 草深昌子

  赤子はやべつぴんさんや山桜

美しい山桜の宿で、庭下駄に下り立って、先生はじめ「晨」の皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは、生涯忘れることはないでしょう」と、帯紙に記されている。
 金剛山は草深氏の故郷の山でもある。
『金剛』は『青葡萄』『邂逅』に次ぐ第三句集。

  消えなんとしてなほ左大文字

筆者は左大文字を毎日見上げる。まるで仏前に手を合わせるように。

  初時雨駆けて鞍馬の子どもかな
  菅浦の子供に出づる地虫かな

 歴史ある村の子供たち。共に幸あれ。

  冬暖か地図のどこにも寺があり
  奥つ城のほかは春田でありにけり
  風の鳴るやうに虫鳴くところかな
  門入ると襖外してゐるところ

昭和18年大阪市生まれ。52年飯田龍太主宰「雲母」入会
60年原裕主宰「鹿火屋」入会 平成10年深吉野佳作賞受賞
12年大峯あきら代表「晨」同人参加 岩淵喜代子代表「ににん」同人参加
「青草」主宰 俳人協会会員。 神奈川県在住。


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☆ 『伊吹嶺』 2017年6月号 通巻228号(栗田やすし主宰)
    俳書紹介

   
 草深昌子句集『金剛』(2016年11月ふらんす堂 2700円)
   「「金剛」こと金剛山は、吉野のある奈良県と、私が生まれ育った大阪府の境に立つ主峰です。なつかしさが重なり、句集名といたしました。」(「あとがき」より)

    赤子はやべつぴんさんや山桜
    奥つ城のほかは春田でありにけり
    耕して大日寺の裏に住む
    あめんぼう大きく四角張つてをり
    網戸より沖の一線濃く見たり

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☆『きたごち』 2017年6月号 第339号(柏原眠雨主宰)
   句集紹介    石川千代子

   草深昌子『金剛』
    
句集『金剛』は著者の第三句集である。
    342句を収録。ふらんす堂刊。
    美しい山桜の宿で、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは生涯忘れることはない。
    金剛山は、奈良県と大阪府の境に立つ主峰である。
    なつかしさが重なり句集名としたと、あとがきに記す。

   稲は穂に人は半袖半ズボン
   赤子はやべつぴんさんや山桜
   さへづりやたうとう落ちし蔵の壁
   石蕗の花さかまく波をよそに咲く
   どこにでも日輪一つあたたかし
   耕して大日寺の裏に住む
   あめんぼう大きく四角張つてをり

   など、感性豊かな写生句が並び、ていねいに物に向き合った表現が明快で、俳味もあり
   深い味わいが伝わってくる一集である。

   1943年大阪市生まれ。
   1989年近松顕彰全国俳句大会文部大臣賞受賞。
   「晨」同人、俳人協会会員。


 ☆『栴檀』 2017年6月号第176号(辻惠美子主宰)
   句集紹介

   『金剛』    草深昌子

   金剛をいまし日は落つ花衣
   椋鳥にうち交じりては青き踏む
   耕して大日寺の裏に住む

    
師や句友と眺めた金剛山、その沈みゆく夕日は生涯忘れないと作者。
    静謐なる世界。

    第三句集、ふらんす堂。
    1943年生、神奈川県在住。
   「晨」同人、『青草』主宰。


 
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 ☆『谺』 平成29年5月号 (山本一歩主宰)
  受贈句集御礼   山本一歩

     『金剛』  草深昌子(青草・晨)

   七夕の傘を真っ赤にひらきけり
   木は朽ちて鉄は錆びたる薄かな
   電球に笠あることの露けしや
   寒晴や鼈甲飴は立てて売る
   着ぶくれて一騎当千とはいかぬ

    
 (平成28年11月21日・ふらんす堂・2700円+税)




 ☆『雪天』 2017年5月号 (新谷ひろし主宰)
   現代の俳句       岡部文子

   赤子はやべっぴんさんや山桜     草深昌子

 
句集『金剛』から。
 あとがきには「美しい山桜の宿で、庭下駄に下り立って、先生はじめ「晨」の皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは、生涯忘れることはないでしょう」とある。
 掲句は山桜の宿での出来事かもしれない。赤子はどんな子でも愛らしいもの。
 だが、この子は早くもすでに別嬪さんだという。単に「美人」と言わず、「別嬪さん」としたことで「山桜」という季語と調和している。



 
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 ☆ 『雲取』 平成29年5月号No・236 (鈴木太郎主宰)
   百花風声 ・  鈴木太郎

   松蝉や宗祇法師の墓どころ     草深昌子
 
 
連歌師宗祇法師の墓は、箱根・早雲寺にあるが、その傍の森に松蝉(春蝉)が鳴くという。
初夏の木々の気配が思われる挨拶句。
                     句集『金剛』



 ☆ 『大楠』 平成29年4月号 (川崎慶子主宰)
 『句集 金剛』 草深昌子

1943年大阪市生れ。1977年飯田龍太主宰「雲母」入会。1985年原裕主宰「鹿火屋」入会。
2000年大峯あきら代表「晨」同人参加。岩淵喜代子「ににん」同人参加。
「青草」主宰。俳人協会会員。

   どきにでも日輪一つあたたかし
   さへづりやたうとう落ちし蔵の壁
   踏青の二度まで柵を跨ぎたる
   耕して大日寺の裏に住む
   奥つ城のほかは春田でありにけり
   門入ると襖外してゐるところ
   あめんぼう大きく四角張つてをり
   網戸より沖の一線濃く見たり
   子規の顔生きて一つや望の月
   風の鳴るやうに虫鳴くところかな
   石蕗の花さかまく波をよそに咲く
   大晴の報恩講に出くはしぬ

  「金剛」は、「青葡萄」「邂逅」につづく第三句集。
                     発行所 ふらんす堂
                         (森 弘子)


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  ☆ 『たかんな』 平成29年4月号 (藤木倶子主宰)

  俳書紹介
  草深昌子句集『金剛』

 『青葡萄』『邂逅』に次ぐ第三句集。
 句集名とされた『金剛』は、著者の生まれ育った大阪府と奈良県境に立つ主峰、金剛山から名付けたとあとががきに。
 雄大な山塊に抱かれ、育まれ、磨き上げた詩心は、豊かに美しい旋律を持つ抒情句となり、読者を引きつける。ますますのご清吟を!

   声はおろか顔も知らざる墓洗ふ
   さかしまに絵本見る子や枯野星
   風光る廃校にして掃かれあり
   さへづりやたうとう落ちし蔵の壁
   金剛をいまし日は落つ花衣
   どこにでも日輪一つあたたかし
   大いなる亭午の鐘や花の山

 1943年大阪市生まれ。77年「雲母」入会。85年「鹿火屋」入会。
 93年第一句集『青葡萄』刊行。2000年「晨」「ににん」いずれも同人参加。
 03年第二句集『邂逅』刊行。現在「晨」同人。俳人協会会員。
 「青草」主宰。カルチャーセンター講師。鹿火屋新人賞外受賞。
  神奈川県在住。
                                 (小野寺和子)

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 ☆ 『篠』 2017 Vol・180 (岡田史乃主宰)
  草深昌子句集『金剛』を読んで

 作者は「青草」主宰。本書は平成5年『青葡萄』、平成15年『邂逅』に続く第三句集である。
   金剛をいまし日は落つ花衣
 句集名『金剛』は大阪、奈良の境、金剛山、作者のふるさとの山から名付けた。
   江ノ電の飛ばしどころや白木槿
 巻頭の句、秋のただ中、鮮やかな水彩スケッチの様である。
   かりそめに寝たるやうなる寝釈迦かな
   傾がざる杭なかりけり涅槃西風
   奥つ城のほかは春田でありにけり
   波際にほどなき若布干場かな

 時節柄、拙稿では主に作者の春の句を鑑賞させていただいた。
 本書を持つと春景をすばやく鉛筆スケッチし、水彩絵の具をうすく乗せたA4ほどの画帳を開くよ うな気がする。
 遠景と近景がマッチし春の風物が溶け込んでおり、写生句として秀逸と思う。

   銀蠅を風にはなさぬ若葉かな
   蝶々の飛んでその辺みどりなる
   雲は日の裏へまはりてあたたかし
   寒禽の空にはづみをつけてをり
   大鳥の遠くをよぎる暮春かな

 自然の中の風物、動植物、気象と季語との取り合せ、俳句の考え方を教えられる。
 意表をつく物事の見方が絶妙であると思う。
 銀蠅と若葉、蝶々とみどり、雲と日、寒禽と空、大鳥と暮春、俳句の中における関係性、
 作者の様に写生から俳句にするには年月長い努力と真摯な気持ちが要るだろう。

   赤ん坊を下ろして梅の咲くところ
   赤子はやべつぴんさんや山桜
   赤ん坊も犬も引っ掻く網戸かな
   ちゃんちゃんこ何かにつけて笑ひけり
   入園の子や靴脱いで靴置いて

 小さな子供へのやさしい眼差しが感じられる。
 あとがきに書名の『金剛』について書かれている。
「恒例の吉野の桜吟行はかけがえのない濃密な句会でありました。美しい山桜の宿で、庭下駄に下り 立って、先生はじめ「晨」の十名ほどの皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕 日を眺めたことは生涯忘れることはないでしょう。」
 赤子はや、の句もその折に生まれた。

   早春やニコライ堂のうすみどり

 今句集の出版記念会において「これが私の初めての俳句」と紹介されていた。
 この頃から今に至るまで、みずみずしい写生の魅力は更に増しながら続いている。

                                     (関島敦司)
by masakokusa | 2017-07-30 22:54 | 第3句集『金剛』NEW! | Comments(0)