結社誌『太陽』・書評~詩林逍遥        柴田南海子
   
草深昌子句集『邂逅』     

 神奈川県厚木市在住。氏は、「雲母」「鹿火屋」を経て現在「晨」(大峯あきら主宰)「ににん」(岩淵喜代子代表)の同人として活躍されている。第一句集『青葡萄』以後12年間の作品を納める『邂逅』は第二句集。装画は深海を発光する海月が漂う幻想の世界。海月について漂ってみよう。

  おしなべて秋草あかきあはれかな

 岸本尚毅氏が栞文にこの句を解説されている。
 ―もともとは叙情的な作家と思われるが、辛抱しながら俳句に忠実ならんとしている.その結果、表現に抑えの効いた佳句が生れる。
私はこの解説に深くうなづくことが出来る。草紅葉の哀れを情を込めて、誠に品よく詠い上げられている。

  うぐひすや球体となる吉野山
  花散るや何遍見ても蔵王堂
  正座して吉野の少女霞むかな
  あけたての音あたたかに石鼎忌
  春深し板に張り付く吉野和紙
  山霧や一夜泊りの反古の嵩


 氏は、句仲間と度々吉野を訪れる。吉野の句はこの句集の芯として存在感に満ちている。鶯の玉のような声がこだまする吉野山は球体、宇宙そのもの。花ふぶく蔵王堂、清純な吉野乙女、石鼎旧居の温かさ、和紙の里、柔らかで素朴な美、吟遊詩人達の霧の夜の句会―吉野での氏は至福の状態で詩魂を昇華させ、珠玉の作品群を生む。

  落柿舎の円座に臀あましたる
  火祭や爪の先まで白拍子
  恋文を袂に時代祭かな


 古都京都での作品。的確で典雅、都の息づきが句に寄り添っている。作品の中に古典がゆったり座っている。

  セーターの黒の魔術にかかりけり
  マフラーの遠心力に捲かれたる


 身辺素材の二句、黒のセーターはお洒落で小粋、抜群のコーデイネートカを持つ。成程、これは魔力を持っている証拠。マフラーをぐるぐる巻き木枯の街へ。暖かい!風が吹けば吹くほど暖かい!そう遠心力が暖めてくれているのだ。「遠心力」なかなか出てこない語である。

  沖へ出てなほ沖見たし西行忌
  初つばめ一度光に消えしより
  邂逅のハンカチーフをかがやかす
  燕来るおほき空気の玉ころび
  手鞠麩を買ふや時雨のはなやぎに


 「俳句の写生について考えることは、自分について考えることに他ならない・・・」複眼で写生したかのような氏の多面多彩な作品の芯はしっとりした叙情であろう。
 上質のブランデイを口に含みその豊潤な香を心ゆくまで愉しむーそんな読後感に私は今満たされている。俳句にかかわっている人生に感謝しつつしばらく余韻に浸りたい。

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 (2004年12月1日太陽俳句会発行「太陽」通巻31号p26~27所収)
by masakokusa | 2007-06-14 15:43 | 『邂逅』書評抄録2
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