『大阪俳人クラブ会報』№156
書評
草深昌子第三句集『金剛』 平成28・11 ふらんす堂
西本真里
赤子はやべつぴんさんや山桜
本の帯に書かれた句である。
桜が描かれた表紙と共に強いインパクトを受けた。
静かではあるが強い芯、そして何よりも温かくおおらかな心。
海桐の実鳶はきれいな声あげて
廃校の時計の生きてさくら草
孑孑や雲は浮いたり流れたり
「青草」を主宰され、「晨」の同人。
鳶も時計も雲もみんな命を持ち、躍動している。
生きている。
草花や正岡子規の眼がきれい
水澄みて甲斐は夕日の沁みる国
どこにでも日輪一つあたたかし
第二句集を編まれた後、ご主人を亡くされ、さぞ色々な思いをされたであろう。
句はさらに深く優しくほのぼのと明るい。
どうぞ更なるご活躍を。
おもひきり遺影の笑ふビールかな
悲しみの中にもご主人と共に在るという強さが感じられる。
(平成30年1月31日発行)
『ランブル』(上田日差子主宰)
2018年1月号 創刊20周年
☆草深昌子句集『金剛』 上岡沙羅
~金剛をいまし日は落つ花衣~
五年前にご主人を亡くされたあとの第三句集である。
大峯あきら氏代表「晨」同人参加、岩淵喜代子代表「ににん」同人参加、
現在「晨」同人、「青草」主宰、カルチャーセンター講師
露けしやかたみに払ふ蜘蛛の糸
一葉落つここなる風の通り道
初時雨駆けて鞍馬の子どもかな
一枚の朴の落葉を預かつて
深吉野に深き空あり藁盒子
詩情にあふれ、作者の自然に向ける優しさが読手の心に染み入る。
赤ん坊下ろして梅の咲くところ
赤子はやべつぴんさんや山桜
竹夫人七瀬を風の越え来たる
七瀬は平安時代以降宮中で行われた陰陽道の祓の場である七つの瀬のこと。
添い寝籠でとる夏の涼に色香が漂う。
自然の大きな優しい抱擁力が赤子を包んでいる。
七夕やみんな大きくなりたくて
ちやんちやんこ何かにつけて笑ひけり
水鳥は水の広きに睡りけり
どこにでも日輪一つあたたかし
行春や鳥居の前の立話
あめんぼう大きく四角張つてをり
どの句にも、自然や子供への優しさ、愛が根底に流れているのが感じられ、心癒される思いがする。
大峯あきら氏の「季節とはわれわれ自身を貫ぬいている推移と循環のリズムである」を信条に、第四句集の上梓をお祈りいたします。