あとがき
あとがき


  『金剛』は、私の第三句集になります。
  第一句集『青葡萄』を平成五年に、第二句集『邂逅』を平成十五年に刊行いたしました。そして又、十年後には第三句集をと心準備をはじめた矢先に、夫を亡くしました。

  平成二十四年五月、病院でのすべてのことを終えて、夫と共にわが家へ帰る途中、車は丹沢山系の麓の大きな竹藪にさしかかりました。

  竹はことごとく皮を脱いでいました。

  人は死に竹は皮脱ぐまひるかな     大峯あきら

 我知らず、一句が溢れました。
  まさしく、人は死に、竹は皮脱ぐ、真昼、でした。
  「季節とはわれわれの外にある風物のことではなく、われわれ自身をも貫いている推移と循環のリズムのことである。世界の中の物は何ひとつこのリズムから自由にはなれない」(『花月のコスモロジー』大峯顯著)という一節が、即座に蘇ったことを覚えています。

  句集を編んでおりますと、この方十七年、吉野、近江、伊勢志摩など方々へ、大峯あきら先生、山本洋子先生 とご一緒させていただきました幸せな歳月が思い出されます。

  ことに、恒例の吉野の桜吟行はかけがえのない濃密な句会でありました。
美しい山桜の宿で、庭下駄に下り立って、先生はじめ「晨」の十名ほどの皆さまと共に、ただ黙って、金剛山に沈んでゆく美事な夕日を眺めたことは、生涯忘れることはないでしょう。

 「金剛」こと金剛山は、吉野のある奈良県と、私が生まれ育った大阪府の境に立つ主峰です。なつかしさが重なり、句集名といたしました。

  これまで、さまざまの句会で格別のご芳情を賜りました先生方、皆さま方に心よりお礼申しあげます。

 平成二十八年六月
                                   草深 昌子
by masakokusa | 2016-12-30 14:17 | 第3句集『金剛』NEW!
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