原石鼎俳句鑑賞・平成27年7月
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   一度吐きし餌にまたよりし金魚の瞳     原石鼎  大正11年

 かつて、水槽に飼っていた金魚はいつもこうだった。
 金魚とはそういうものだと決めてかかっているものにとって、これが俳句になるとは思いもしなかった。
 それがどうした、と言われればそれまでのような句ではあるが、何故だかハッとした。
 そのハッとが、すでに詩になっている証拠ではないだろうか。

 人間であっても、食い意地のはったものは、餌のある限りは餌を食わんとするものだが、一度口から吐き出したものを再度口に入れようとするだろうか、しないだろう。
 いや、赤ん坊の頃は、金魚同然であったかもしれない。
 いのちの原始を見せられたようで、「金魚の口」でなく「金魚の瞳」というあわれさに、しばし惹きつけられてしまった。

 掲句は、創刊百年記念『ホトトギス巻頭句集』から引いた。
 大正11年7月号「ホトトギス」の巻頭を飾ったのは以下の8句である。

   暮れてなほ浪の蒼さや蚊喰鳥       東京 石鼎
   岩藻皆立ちてゆれゐる清水かな           同
   清水掬んで底の形やしかと見し            同       
   一度吐きし餌にまたよりし金魚の瞳         同
   荒馬のつぎ荒牛や初夏の路              同          
   麦笛を懐ろの裡に吹く男                同
   滝を見し心さむさや杜若                同
   抜き捨てし一茎岸に菖蒲池              同

 ちなみに、掲句は『原石鼎全句集』には、「一度吐きし餌に又よりし金魚の瞳」とあり、原石鼎自選句集『花影』には、

   一度吐きし餌にまたもよる金魚の瞳

となっている。

 「餌にまたよりし」が断然いいと思うが、どうであろう。
by masakokusa | 2015-07-31 23:58 | 原石鼎俳句鑑賞
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